犬越路より檜洞丸へ
福井達三
昭和五年十一月二十九日(土)
務め持つ身の悲しさ、いつものとほり、今日も亦慌しいおもひをしながら東京駅を出たのは午後の一時四〇分であった。 同行は、野口君唯一人、久々にのんびりとして眺める湘南の海 は洵に美しい。そのウルトラマリンの大洋が蒼穹の下に洋々として展がるのを眺める気分は、山男に取っても決して悪いものではなかった。・・・
「山小屋」第貳號 朋文堂 昭和六年十二月一日發行より