2015年4月14日火曜日

ぶなニュース №20

復刻版 ぶなニュース 第20号 2002年8月13日発行

○富士山・大室山のブナ
 NHKが4月29日に放送した「樹海」を見て以来、大室山の樹齢400年のミズナラが気になっていた。ことによると大ブナもあるのではないかという期待もあった。
 8月8日、1日の夏休みをとり、同地を訪ねることにした。

 鳴沢の道の駅で食料を調達。売店に”おばあちゃんの手作り無添加の蒸し饅頭”と表示された美味しそうな饅頭があったので、衝動的に10個買い込む。偽装の多い昨今(日本ハムも最近になって牛肉の偽装がバレる)この蒸し饅頭?100個も200個もおばあちゃんが作れる訳がないと分かっていたが、そこは目をつぶることにした。
 鳴沢の道の駅から、精進湖方面へ1キロほど行ったところを左折、道なりに3キロほど進むと左側に大室山への進入路がある。見落としやすいのでここは注意が必要だ。 入口のところに車を置き出発。進入口はゲートが閉まっているが、人は入れる。看板には次のように書いてある。

 天然記念物富士山原始林
 大正15年2月24日指定
 精進湖より富士林道に沿う両側各180メートルの範囲
 五合目小御岳に至る約16キロ
山梨県

この登山道沿いに大室山原始林はある。
 途中風穴もあり、涼を取ることが出来る。
 風穴の入口は摂氏5度ぐらい。吐く息も白くなる。10分程いると寒くなる。この風穴の前に立っている看板に、ここの地番が書いてあり、
 上九一色村精進青木ヶ原54番地
とある。 道の両側は異様な溶岩の樹林帯が広がっている。土のない溶岩の上に生えたこれら草や樹木の生命力に 自然の偉大さを感じた。

さらにこの登山道を進むと突然今までの風景が一変する。 右側に急に開けた広葉樹の森が現れる。左側はいままでの溶岩の樹林帯だ。
どうしてこのような風景になったかは、事前の情報で分かっていた。
 先のNHKの放送を見ていたからだ。
それによると、1000年以上前富士山が大噴火を起し、その噴火で大量の溶岩がここに流れてきた。 しかし、この手前に大室山があり、丁度防波堤の役割をした。溶岩は大室山を迂回して斜面を下っていった 。そこで大室山の北側斜面のこの森が無事に残されたのである。
 当初、この残された大室山の部分にはすべて原生林が残っているものと思っていた。ところが、後で唖然とする光景を見ることになる。1000年前の大噴火と大量の溶岩流、大火災から奇跡的に残ったこの原生林は残念ながら、昭和43年ころの造林計画で、ほとんどすべて伐採され、その後にカラマツ、シラベなどが植林されてしまったのだ。
 富士山の大噴火よりも恐ろしい人間の行為により、殆んどのミズナラやブナは消失したのである。 ブナ、ミズナラ達の虚しさ悔しさはいかばかりであったろうか。
 僅かに残されたミズナラやブナを見ていると胸が熱くなってくる。

 気をとりなおし、NHKで放送された樹齢400年以上のミズナラを探す。広葉樹の開けた森の斜面を少し登ると、 巨大なミズナラが姿を現した。デカイ。早速計測する。胸高幹周り620センチだ。波のように盛り上がった大きな根元部分が特に素晴らしい。波の間に人間が入ることも出来る。この隙間に入ると、丁度ミズナラに抱かれたような気になるから不思議だ。最悪最強の敵であるはずの人間を優しく受け入れてくれる。正にこれは仏の慈悲だ。

 大きなブナはないかと辺りを見渡すと、このミズナラから50メートルぐらい離れたところに直立したブナが見える。心臓の高鳴りとともにその場所に近づく。ドーンと強烈に大きなブナが出現。これはデカイ。 見上げると6メートルぐらいのところで枝別れし、天に昇っている。すごいスケールだ。
 早速巻尺を取り出し、計測。440センチと満足な太さだ。ミズナラと同様樹齢400年以上の巨木だ。
 根元近くがだいぶ踏み固められていたので、5メートルぐらい離れたところにビニールシートを敷き、時間をかけてこのブナを堪能する。 腹も空いたので、このブナを見上げながらの昼食。先ほど道の駅で買った、おばあちゃんの手作り蒸し饅頭が甘い。すべてのストレスがすっ飛び、気分は今日の天気のように晴れ晴れだ。改めて大自然の偉大さに畏敬の念を持つ。
  この場所には30分ほど居て。首が痛くなるまで見上げていた。去りがたい気持ちであったが、それを払拭し帰路へ。
 帰り際、車をとめた道路の反対側の森も気になったので、入ってみる。何本かブナもあったが、3メートル以上のものは見当たらなかった。森の中に四角いネットのようなものがあり、一定の間隔で設置されていた。よくみると山梨環境科学研究所0555-72-6192と書いた赤いテープがつけてある。恐らく森の生物調査をしているのだろう。ネットの中を覗くと小さな虫や小さな木の実などが入っていた。

 今日の収穫は何といっても巨大なミズナラとブナであった。ありがとう。

 
440センチのブナ、平成14年8月8日撮影

大室山北側斜面の地形図(国土地理院の地形図より)


○夏 森に夢中
  日経新聞の夕刊で、”夏 森に夢中”を連載している。 8月8日の③で、
 「地元では普通の風景である手付かずの自然こそ、都会人が今求めるもの」とある。

 今の日本に本当に手付かずの自然などあるのだろうか?疑問に思える。確かに都会の公園からみれば、田舎の風景は手付かずの自然に見えるのかもしれない。
テーマパークや公園、そのほかの人工的に作られた自然モドキのものは、まともな人間ならすぐに飽きてしまう。 そこでいろいろな過激なイベントへとエスカレートする。どこかのテーマパーク(USJ)のように大量の火薬を不法に使用することにもなる。