2017年8月21日月曜日

燕岳から蝶が岳

先ほど知人から紀行文と思い出の写真が届きました。

あれから何年経ったのだろうか?初めて家族で北アルプスを歩いてから。
家族は私のことを最近いつも過去のことばかりを話していると揶揄する。
そう!まだ行ってない山へ行こうという気持ちより前に登った山に懐かしさを感じ・・・
息子が小4娘が小2年生の時に天泊で登った燕岳→蝶が岳→上高地へ、あの時の輝きを味わいたく1人でテントを担ぎ中房温泉登山口に入った。
今日の宿は合戦小屋と決め、ともかく登らねばこの旅も始まらない。
息を切らして登っていると目の前の岩に一羽の小鳥がこちらを見ていた。近くまで寄るとまるで水先案内人のように飛び立ち少し先の岩から(こっちだよ!早くおいでよ!)とでも言う様に3~4回繰り返して去っていった。
翌日、燕小屋に向かい登ってゆくと可愛い黄色のウサギギクや白色のイブキトラノオや薄紫の触れば壊れてしまいそうな乙女の心のようなハクサンフウロが私を迎えてくれた。
花崗岩でできた燕岳は日本の山の中でも特異な山容だ。そこは山の頂上というよりも海だ。
砂浜と岩と、そして白い雲がまるで波の様である。この日は天気が良くイルカ岩の向こうに槍ヶ岳が望めた。
稜線歩きが私の山登りで1番好きな時間だ。
目の前に広がるなだらかな山脈,目的地が水墨画のように色が薄れ見えなくなる。
そして突然現れる山小屋。
槍ヶ岳と常念岳の分かれ道、常念岳に進路を取り急登を詰めて行くと大天井小屋まであと400mと書かれた札があった。トラック1周の距離だ!たったの400mがきつく苦しい。
それにしても長い距離であった。
あの時の子供達も頑張ってくれていたんだと思うと力が湧いてきた。
そして喘ぎながらやっとのことで小屋にたどり着いたのが13時頃だった。
先に進むか暫く悩んでいたが、この日は天気が良く登山者が皆思い々に寛いでいる姿に心が動かされ、今日の行程はここまでと決めた。
明日も天気にな~れ。
目を覚ますと天幕を打つ音がしていた。
うとうとしながら雨を気にしているうちに時間だけが過ぎてゆき、やっと雨が止んだのを待って撤収に取り掛かった。
出発が遅かったので今日の行程は常念小屋までと決め、芳しくない天気の中一路足を進めた。
アップダウンの少ない登山道で気持ちよく常念乗越に着いたのが8:40だった。
天場の申し込みに行ったら(こんなに早く?)と言われてしまった。今日はここで沈殿だ~。小雨模様の天場は寂しい!
話し合う仲間が見つからない・・・スマホ遊びも電池の問題で出来ず、かといって読む本もなし。
引きこもり状態で夜を迎え明日の天気を期待した。
予報では明日はかなりの雨になるようだ。
明日は上高地の徳澤まで下らなくてはならない。
明日は天気にな~れ。
目を覚ますと雨音がしない。ヘッドライトを照らし3:45に常念岳に向かい登り始める。途中ヘッドライトの光に照らされ雨に濡れた純白のドレスを身に纏った花嫁の姿にも似たトウヤクリンドウが目に入った。
頂上にはまだ誰もいなく寂しくひとり登頂を祝い、これから向かう蝶が岳への道が朝日に照らされどこまでも伸びて、山間から霊気を帯びた雲が高天原に向かい昇ってゆく。1日の始まりの儀式の様である。
雨も降りそうにないので雨具を脱ぎ下ってゆくと花畑に出た。そこは高山植物のありとあらゆる花々が今を盛りと色の限り、香りの限りを尽くして虫達を誘っていた。正に百花繚乱である。
雨は降ってはいないものの足や腕は草木に纏わりついた雫で濡れ、岩を乗り越えるために幹や枝を掴み力を入れると頭の上から水をかけられたみたいに身体中が雨の中を歩いているようであった。
樹林帯を登りきる手前で当時のことを思い出していた。
その日は暑い1日で、水筒の水が少なくなり子供たちに水が残り少ないので少しづつ飲むように指示をしていた時、それを聞いていた単独行の方が少し水を分けてくださいと尋ねてきた。心では少ししかないのに、みんな我慢しているのにと心の片隅で感じながらも、心と裏腹によろしかったらどうぞと!残り少ない水筒を彼に手渡した。
何度も何度もお礼を言われ心なしか自分が恥ずかしかった。
岩場を登り、ザレ場を皆、喉を枯らしながらやっとの思いで蝶が岳山荘にたどり着いた時、目の前に彼が私たちに高価な飲み物やチョコレートを用意してベンチで待っていてくれた。
話が弾み、聞くところによると彼の年齢は60歳でテントを担ぎ上げ北アルプスを縦走していた。
その時自分も60歳まで山登りをしよう!いや頑張ろう!そう60歳まで縦走はできるはずだと私の指針になっていた。
55歳になり後残すところ5回の夏休み。59歳の時、あと1回 そして60歳になりまだ自分では続けられると確信して67歳の今、また新たな気力が生まれてきた。
そして霧雨の中、蝶が岳小屋のベンチの前には誰一人の姿もなく当時の雰囲気は見つからなかった。
明日はどうしても朝靄の中の上高地を見るために心に鞭をふるい長い山道を下って行った。
途中大雨に打たれたが雨具を着る気にもならず雨に打たれるまま、濡れるままひたすら下り徳澤(上高地)に着く。
少し前に雨は止んだ。この日は12時間もの行動であった。歩みは遅いがこれだけの時間歩けたことに心の底から充実感を覚え、あの時の青春の輝きと軌跡に少しでも触れたような思いと共に今回の旅を終えた。
酒井 つとむ 2017.8.13~17
映像のリンクです。 
https://1drv.ms/v/s!AqKkVj_ptxM3hU9abZFLbH7862NI
それと1994年の写真を添付します。